2008年5月29日木曜日

この世の全部を敵に回して

昔、Penguin Clubで紹介した小説家の白石一文さんが、先日、最新作「この世の全部を敵に回して」を送って下さったので、先週末、一気に読んだ。彼のメモに、「今度の作品は、なかなか理解に苦しむものかもしれません。評判も決してよくないようなのですが、僕としては渾身の一作です。どうか、一度とはいわず二度、三度読んでいただければと思っています。作者の真意が読み重ねるたびに伝わってくるのではないかと自負しています。」とあったので覚悟して読んだ。「人は何故生まれ何故生きるのか」をテーマに数多くの名作を生み出し続けてきた彼に取って、いつもとは異なる一風変わった作風で、確かに一度読んだだけではなかなか彼が言いたいことをすべて汲み取るのは難しいように思ったし、決して大勢の人の理解を簡単に得ることの出来る内容ではないと思ったが、いたるところに彼らしい感受性の豊かさと洞察の深さを感じる佳作だと思った。最近、本質的なテーマに逃げずに取り組む人が少なくなっているように感じるが、軽い携帯小説などが流行る時勢において、彼の存在は貴重であるし、少しずつでも彼の読者が増えていくことを願っている。

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